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がん専門薬剤師とチームで取り組む抗がん剤の副作用対策 その2 乳がん

東京薬科大学薬学部 臨床薬剤学教室
准教授・がん専門薬剤師 下枝 貞彦

はじめに

 前回は、オキサリプラチンとイリノテカンを例に、がん専門薬剤師とチームで取り組む、大腸がん薬物治療とその副作用対策についてご紹介しました。今回は乳がんを例に、がん専門薬剤師が治療にどのような貢献をしているのか具体的にご紹介いたします。

乳がんの薬物治療

 乳がんの薬物治療は主に、抗ホルモン剤、抗がん剤、分子標的治療薬の3つから構成されています。乳房の働きは、エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンの1種と大変密接な関係があります。しかも、このエストロゲンが乳がん細胞の中にあるエストロゲン受容体と結びつき、乳がん細胞の増殖を促しているのです。そこで、このエストロゲンがエストロゲン受容体と結合することを阻止する働きがある「抗ホルモン剤」を投与すれば、乳がん細胞の増殖を押さえ込むことが可能となります。ところが抗ホルモン剤を投与してエストロゲンの働きを強制的に押さえ込んでしまうと、特に閉経前の女性ではホルモンバランスが崩れてしまい、様々な問題点が生じてきます。いわば、抗ホルモン剤は閉経前の女性にとって強制的に体を閉経状態に変化させてしまう働きがあるのです。

抗ホルモン剤の副作用

 代表的な抗ホルモン剤にタモキシフェンという飲み薬があります。閉経前の女性がこのタモキシフェンを服用すると女性ホルモンの働きが低下し、様々な副作用が現れます。この薬を飲み始めた患者さんがよく訴えられる副作用には、「不正出血が起きた」「帯下が増えた」「陰部に違和感がある」「体がほてる」「動悸や息切れがする」「イライラ、そわそわする」などといった女性特有の訴えが目立ちます。一方既に閉経期を迎えられた乳がん患者さんでは、閉経前には主として卵巣で作られていたエストロゲンが脂肪組織で作られるようになるため、その変化に合わせ「アロマターゼ阻害剤」と呼ばれる別の薬でエストロゲンが作られるのを押さえ込む必要があります。

がん専門薬剤師の役割

 以上述べてきたように、抗ホルモン剤を服用する際には様々な問題点が生じてきます。乳がんでは、手術後の再発予防策として5年間から場合によって10年間という長期間、抗ホルモン剤を服用しなければなりません。薬を飲むことで、女性の体にどのような変化が生じて来るのか、専門家から時間をかけて説明を受け納得してからでないと、抗ホルモン剤との長いお付き合いはできません。その際、がん薬物治療の専門家であるがん専門薬剤師が患者さんに副作用の説明をしたり、不安を抱える患者さんの胸の内をお聞きしたりすることは、患者さんが抗ホルモン剤と長くお付き合いいただくためには是非とも必要なのです。

おわりに

 3回にわたり、がんの薬療法に特化したがん専門薬剤師が患者さんにとってどのような役割を果たしているのか、その一端をご紹介いたしました。これを機会に、がん患者さんに寄り添うがん専門薬剤師のことを、今後もご記憶に留めていただくようお願いいたします。
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