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ポリファーマシーと薬のメリット・デメリットのバランス

慶應義塾大学 薬学部 病院薬学講座
助教 中田 英夫
 近年、多くの方が「ポリファーマシー」という言葉を目にされていると思います。
「ポリファーマシー」とは、単純に「服用している薬が多いこと」と思われがちですが、実際は「薬が多いこと」に加えて、副作用や飲み間違い、飲み忘れなど「問題が起こる可能性がある状態」(厚生労働省資料)とされています。
 薬には、服用するメリット(利益=効果)とデメリット(不利益=副作用や飲み忘れ、飲み間違い、経済的な負担など)があり、薬による治療は、そのバランスがメリットの方が大きいことによって成立しています。つまり、薬の数が多くてもメリットが大きい場合は治療として有益と判断されますし、薬の数が少なくてもデメリットが大きい場合には不適切となることもあります。その中で、ポリファーマシーとは、「薬の数が多くなり、デメリットがメリットを上回るようになってきた」状態と言うことができます。
 ヒトの体では投与された薬は肝臓や腎臓で分解排泄されて体外に出ていくようになっており、薬の種類が多くなると、これらの臓器に負担をかける(肝機能障害、腎機能障害を起こす)ことがあります。また、これらの臓器は加齢と共に機能が低下するため、同じ薬を続けていても薬の分解や排泄が遅くなり、次第に効きすぎてしまうことも考えられます。更に種類が増えると薬の飲み合わせのリスクも高まります。「入院中で6種類以上の薬を服用している患者さんでは、5種類以下の患者さんと比べて薬の副作用が起きやすい」、「5種類以上の薬を服用している患者さんでは、4種類以下の患者さんと比べて転倒しやすくなる」などの研究報告もあるので、「薬が増えること」自体が「デメリットが増える」ことにつながることも否定できません。最近では高齢者に対する薬の使い方の指針が策定られ、一部の眠剤では高齢者でデメリットが大きくなりやすいということも明らかになってきています。
 しかし、注意していただきたいのは、多くの種類の薬を服用することが必要なケースもあるということです。高血圧や糖尿病など生活習慣に関連した疾患では、一種類の薬で効果不十分な場合には、異なる効き方をする薬を組み合わせた方がよいとされており、メリットがデメリットを上回ることも多々見受けられます。
 一般的に、ポリファーマシーになりやすい状況として、複数の医療機関や診療科を受診していることがあげられます。胃薬や下剤、眠剤など、同じような薬が重複して処方されるケース、一方の薬で副作用が起き、別の医療機関で副作用を抑えるような薬が処方されるケース、といったパターンです。これらのケースでは薬を受け取る薬局を1か所にまとめること、お薬手帳を1つにまとめることによって、薬剤師が複数の医療機関からの薬をチェックして、医師に相談して薬を減らすことができることがあります。また自宅に薬が余ってしまっている場合も、薬剤師に相談すれば、返品はできませんが、医師と相談して処方する数を調整することができます。
 薬のメリットやデメリットの感じ方は個々の患者さんで異なるので、疑問を感じた際には、かかりつけの医師や薬剤師にお薬手帳を提示して相談してみましょう。ご自身の判断だけで薬をやめてしまうことはしないようにしてください。「今まで飲んでいたから大丈夫」と思わずに、定期的に医師や薬剤師と本当に必要な薬なのかということを相談して、少しずつご自身の薬のことをわかるようにしていきましょう。
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