横浜市立みなと赤十字病院
健診センター長 伊藤美奈子
前回は睡眠全般についてお話しました。今回は、睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)に特化してお伝えします。
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、1日の平均睡眠時間6時間未満の人では、男女とも「日中、眠気を感じる」人が4割以上で、日本成人の約15%が日中に強い眠気を感じています。十分な睡眠を確保するためには、時間はもちろん、質も大切です。SASは生活の質を低下させる疾患です。日中の眠気や集中力の低下は、交通事故をはじめとする労働災害につながることや生活習慣病の発症が高まるとされています。
睡眠中に酸素不足になり循環器・呼吸器系に影響が及ぶ結果、高血圧、不整脈、心筋梗塞・狭心症、脳卒中、糖尿病、うつ病、認知症などが引き起こされます。適切な治療を受けることで症状が改善し、生活習慣病の発症の危険性が減ることが示されています。予防と早期発見が重要です。
睡眠中に呼吸が止まる、または呼吸が浅く・弱くなるなどに加えて、日中の眠気、集中力の低下、疲労感を伴う場合はSASが疑われます。他の症状は、夜中に目がさめる、大きないびきをかく、起床時の頭痛、寝汗などがあります。思い当たる症状がある場合は専門医への受診をおすすめします。SASの診断検査では、重症度の評価としてAHI(Apnea Hypopnea Index: 無呼吸症候群指数)を用います。AHI とは1時間に10秒以上の無呼吸・低呼吸が発生する回数で示します。
日本人の睡眠時間は世界的に見ても短く、経済協力開発機構(OECD)の2021年の調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、加盟国33ヶ国中最下位でした。OECD加盟国の中で一番睡眠時間の長い米国と比べると、約1時間半も短くなっています。
睡眠の量は時間で把握するのに対し、睡眠の質はその人の「睡眠休養感(睡眠で休養がとれている感覚)」で評価します。グラフのように、睡眠時間が短いことに加えて、睡眠休養感が低い人の方が死亡率が高かったという研究報告があります。また、質の良い睡眠をとることで認知症予防につながると考えられています。
★ 生活習慣改善のポイント ★
- 減量:肥満とSASは深い関係があります。
- 節酒:アルコールは、筋肉をゆるめる作用があるため、気道の閉塞を起こしやすくします。
- 禁煙:たばこは、気道に炎症を起こし、むくみで気道が細くなります。
- 体位:少しでも重力の影響を受けないように体を横向きにして寝ると症状が軽減する場合があります。