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健康メモ
高齢者の肺炎
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高齢者の肺炎

済生会熊本病院呼吸器センター部長 菅 守隆

肺炎による死亡順位は、最近の優れた抗生剤の出現にかかわらず、この数十年間第四位で変化がありません。それは高齢者の肺炎の死亡率が高いからです。昨日まで何となく元気ないように見えていただけの高齢者が急に呼吸困難に陥って重症肺炎と診断されることや、呼吸器の症状が全くないのに肺炎と診断されることがあります。それは何故でしょう?今回、これらの高齢者の肺炎について、その特徴と注意点、高齢者肺炎の症状、高齢者肺炎の成り立ち、高齢者肺炎の原因と予防をお話しします。

高齢者の肺炎の特徴と注意点

高齢者肺炎の特徴と注意点は、(1)肺炎症状が乏しく、症状が非定型的であるため診断・治療が遅れるがちになること、(2)高齢者肺炎には肺結核が混在していること、(3)すでに他の病気(糖尿病や心疾患など)に罹っている人が多いので、潜在的な肺炎発症因子や増悪因子を持っているため肺炎が急速に重症化すること、(4)原因として気付かない誤嚥性肺炎が多いこと、などが挙げられます。

高齢者肺炎の症状

高齢者肺炎では、発熱、咳、痰 など肺炎に随伴する症状がないか、あっても軽微なものに止まる症例が40%程度に見られます。また、食欲不振や意識障害など一見肺炎と関係のない症状で見つかることがあります。

−高齢者では咳の出ない肺炎も多い−

肺炎の初発症状としての咳・痰の頻度は高齢者では一般成人に比べ約20%程度低いと言われています。65歳以上の肺炎患者では初発症状としての咳は約40%の症例で認められないと言われています。

−呼吸器以外の症状にも注目−

高齢者感染症において発熱の頻度が低いことがわかっています。また、高齢者肺炎患者では食指不振、全身倦怠感、意識障害が前面に出ることがあります。意識障害は、高齢者の場合、高熱の持続がなくても食指不振、飲水低下による脱水が高度となり易く、これに低酸素血症が重なり中枢神経異常を来します。高齢者肺炎の初発症状として意識障害を呈する症例は約25%程度に見られ、これらの症例は約70%以上に脱水所見が認められることが明らかにされています。脱水は肺炎重症化の重要な要因です。

−痰を伴う咳の中には結核菌が・・・!−

痰は高齢者肺炎の初発症状として約55%に認められます。この喀痰で重要なことは、肺炎と全く同じ症状で喀痰に結核菌を排出している(塗抹陽性)患者さんが紛れ込んでいることです。そしてこの喀痰中の菌が空中に飛散して結核菌を次々に感染させる(空気感染)ことが問題となります。結核に高齢者が多いのは数年来の傾向です。70歳以上の患者が全体の3分の1以上を占め、60歳以上が過半数を占めています。また患者数だけでなく、増加率も70歳以上が最も高くなり、80歳以上の超高齢者では10年で2倍の結核患者が増えています。これは、免疫力(細胞性免疫)の低下で眠っていた結核菌が目を覚ますからです。お年寄は結核を発病する危険性が高いことを本人と家族がよく理解して、「咳・痰」が続く時にはすぐに専門医の診察を受けるようにしましょう。

高齢者肺炎の成り立ち

−高齢者肺炎は呼吸不全に陥りやすい−

高齢者肺炎では早期より、また病巣の拡がりが少ないにも拘らず呼吸不全に陥り易いことがわかっています。若年者が病巣の40%の拡がりで呼吸不全に陥る時、高齢者は23%で呼吸不全となることが報告されています。さらに、高齢者肺炎では心不全を伴うことがあり、呼吸困難は急速に増悪する可能性があるので早期診断、早期治療が重要です。

高齢者肺炎の原因と予防

−高齢者肺炎は夜作られる−

咳は元来、気管支の繊毛運動、蠕動で除去できない気管支内異物を除去することを目的とした反射運動ですが、肺炎を起こす高齢者ではこの反射が低下していることがわかっています。高齢者の肺炎発症機序として最も重要なことは、脳血管障害、長期臥床、ADL低下状態による嚥下障害の存在が多いことは勿論ですが、本人および家族が気付かない摂食、嚥下障害がしばしば認められ、いわゆる不顕性誤嚥が関与していることです。すなわち、夜間就寝時に口腔内の唾液や食べ物の残りが気道に落ち込み、咳反射が低下しているために気付かずに朝を迎えることになります。これが高齢者肺炎の重要な原因となっています。これを予防するためには口腔内をいつも奇麗にしておくことや寝る姿勢(頭を高くする)など日常生活の工夫が重要です。

−ワクチンのススメ−

薬物の予防としては、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンがあります。特に、インフルエンザワクチンは高齢者の入院頻度、死亡率を減らすことが分かっていますし、これに肺炎球菌ワクチンをすると更に高齢者肺炎で亡くなる人の数が減ることが分かっています。是非、インフルエンザワクチンは年に1回、肺炎球菌ワクチンは5年間有効です。ワクチンをして備えておきましょう。

まとめ

肺炎に備えるためには、(1)高齢者特有の肺炎症状を理解して早期に「肺炎かもしれない」と気付くこと、(2)「重症化しやすい」ので早期に医療機関を受診すること、(3)高齢者肺炎は「気付かない誤嚥」が原因のことが多く、この予防には日常の予防対策をすることが大切で、また、(4)高齢者肺炎の中に「肺結核」が時に紛れ込んでいることを知っておかねばなりません。

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