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健康メモ
喫煙と慢性閉塞性肺疾患
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喫煙と慢性閉塞性肺疾患

熊本労災病院 呼吸器内科部長 伊藤 清隆

JTの「平成17年全国たばこ喫煙者率調査」によると、成人男性の平均喫煙率は45.8%で、ピーク時(昭和41年)の 83.7%と比較すると約38%減少しており、この14年間減少し続けていますが、諸外国と比べると未だ高い状況です。たばこの煙には4000種類以上の化学物質が含まれており、その内200種類以上が人体に有害で、60種類以上に発癌性が認められています。喫煙は各種の癌や動脈硬化の促進によって全身の臓器に障害を与えますが、呼吸器系は直接たばこ煙に曝されるので特に影響を受けやすいといえます。

その中でも最近注目されている病気が慢性閉塞性肺疾患(COPD)です。COPDとは有毒粒子やガス(タバコの煙、大気汚染、室内有機燃料煙)を吸入することによって肺・気道に炎症反応をおこし慢性進行性の呼吸障害をおこす病気です。特に喫煙は最大の外的危険因子で、90%近くのCOPD患者は喫煙者です。COPDの中には慢性気管支炎と肺気腫が含まれますが、この2疾患は症状や病態が共通し併存する場合が多いのでまとめてCOPDと呼ばれるようになっています。

症状は咳嗽、喀痰、労作性呼吸困難などがありますが、喫煙者は咳や痰が出るのは当たり前、息切れも症状が強くなるまでは年齢のせいにして、気づいたときには重症になっていることが多いようです。治療はまず禁煙を行い、中等症以上では気管支拡張剤の吸入や内服を行いますが、症状を完全に取り去ることは出来ず、慢性進行性で重症例では呼吸不全となり常時酸素吸入が必要になります。従来日本のCOPD有病率は約0.2%と云われており、欧米各国のCOPD有病率の約6%前後に比較して少ないので、人種差があるのではと考えられて来ました。しかし、2000年に行った全国規模の疫学調査の結果、日本全国で潜在患者を含めて40歳以上の少なくとも8.6%、530万人がCOPDに罹患していると推定されました。さらに「国民衛生の動向」によれば、COPDは1999年までは10大死因順位に計上されていませんでしたが、2000年には死因の第10位にはじめて登場しました。世界ではCOPDは死因の第4位であり、今後の20年間で有病率、死亡率共に上昇し、2020年には第3位となると予測されています。

一般に喫煙者の15-20%がCOPDを発症すると云われていますが、たばこ煙に感受性のある喫煙者も、禁煙することによってCOPDの進行、特に肺機能の低下を軽減できることが証明されています。しかし多くの喫煙者は数度の禁煙の経験がありながら、なかなか成功しないのが現状です。これは長期間の喫煙により「心理的依存」と「ニコチン依存」の2つの依存状態に陥っているからと考えられます。食後の一服、会議中の一服など長年の行動習慣によって形づくられた「心理的依存」から抜け出すには、吸いたくなったらお茶を飲む、体操をする、歯を磨いて気分転換するなど日常生活での工夫が必要です。たばこを吸わないとイライラするような「離脱症状」が強い場合には、ニコチンパッチやニコチンガムなどの「ニコチン代替療法」が勧められます。欧米ではニコチン依存症を「再発しやすいが、繰り返し治療することにより完治しうる慢性疾患」と捉え、禁煙治療に対する保険給付などの制度を導入して、多くの喫煙者が禁煙治療を受けることができるよう社会環境の整備が行われています。我が国では本年4月からようやく禁煙治療に対する保険適用が開始され一定の基準を満たした「ニコチン依存症管理料登録施設」においてニコチンパッチが保険で使用できるようになりました。禁煙は最も確実にかつ短期的に大量の重篤な疾病を劇的に減らすことのできる方法であり、喫煙中の方はこの機会に是非禁煙されることをお勧めします。

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