ホーム
健康メモ
たかが脂肪肝、されど脂肪肝 〜最近話題の“非アルコール性脂肪肝炎(NASH)”とは〜
健康メモ

たかが脂肪肝、されど脂肪肝
〜最近話題の“非アルコール性脂肪肝炎(NASH)”とは〜

NTT西日本九州病院 副院長(肝臓・消化器内科) 藤山 重俊

わが国では、食生活の欧米化や運動不足などに伴い肥満人口が増加の一途を辿っています。40〜74歳の約940万人が肥満に加えて高血糖、高血圧、高脂質の危険因子を複数併せ持ち、心疾患や脳血管疾患を発症する可能性が高い「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」の有病者で、予備軍を含めると1960万人に達するとの推計が「2004年国民健康・栄養調査結果の概要」で明らかにされています。すなわち、40〜74歳の男性の2人に1人、女性の5人に1人が有病者か予備軍に該当することになり、中高年者の生活習慣改善が緊急の課題となっています。

肝臓の脂質代謝機能がバランスを失うと、肝細胞に中性脂肪が溜まり、肝機能を低下させます。3000億個ある肝細胞の30%以上に脂肪が溜まり、いわばフォアグラのようになった状態を”脂肪肝”といいます。脂肪肝の原因としては、過栄養(食べ過ぎ)や運動不足による肥満、アルコール、糖尿病、ダイエットなどでの過度な食事制限、薬物性などが挙げられます。自覚症状はほとんどありませんが、なんとなく体がだるい、疲れやすい、吐き気がする、腹が張るなどの軽い症状が現れる場合もあります。かつては、脂肪肝は良性・可逆性の病態の最たるものとされ、さほど重要視されていませんでした。

メタボリックシンドロームの肝臓版といわれているのが非アルコール性脂肪性肝疾患で、この約90%は病的意義のない単純性脂肪肝ですが、一部(約1割)は肝硬変や肝細胞癌へと進展していく非アルコール性脂肪肝炎(NASH、ナッシュ)として、最近注目されています。すなわち、NASHはアルコールを全く飲まないか飲酒量が少ないのにもかかわらず、アルコール性肝障害によく似た所見を示し、肝実質の壊死・炎症、線維化などを伴う進行性の疾患です。40〜50歳以降に好発し、軽度の全身倦怠感、易疲労感、腹部不快感などを訴える事もありますが、多くは無症状です。また、肥満者に多く、糖尿病、高脂血症、高血圧などが認められ、これらの生活習慣病の合併のない例は少ないようです。西原らによれば、NASHの96%が内臓脂肪型肥満を有し、48%がインスリン抵抗性、66%が耐糖能異常を認め、73%が高血圧、40%が高脂血症を示すとされています。肥満大国アメリカでは成人の3〜5%が、わが国でも最近増加して1%弱(約75万人から100万人)がNASHと推定されており、肥満者(BMI25以上)におけるNASHの相対危険率は非肥満者の約6.7倍となっています。

NASHは、(1)非飲酒者またはアルコール摂取量が1日20g(ビール1本、日本酒1合)以下である、(2)AST(GOT)、ALT(GPT)やγ-GTPの軽度上昇(AST<ALT)が続いている、(3)ウイルス肝炎など他の肝機能障害がない、(4)画像診断(エコー、CT、MRI)で脂肪肝の所見がみられる、などの場合にまず疑い、単純性脂肪肝との鑑別も含め確定診断には肝生検が必要です。さらに、AST>ALT、血小板数低値、脾腫、線維化マーカー(ヒアルロンサン値)高値、などがみられればある程度以上進行した状態と思われます。

NASHはただの脂肪肝ではありません。線維化が進み、肝硬変、さらには肝癌や肝不全へ移行します。脂肪肝と診断されたら、”たかが脂肪肝”と考えて安易に放置せず、まず単純性脂肪肝かNASHなのかの鑑別をする事が重要です。早期のNASHは食事療法や運動療法などによる肥満・生活習慣の是正で改善しますが、高度線維化NASH症例では肝硬変、肝癌も視野に入れた経過観察が必要です。

ページTOPへ