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健康メモ
いろいろなボケと治るボケ
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いろいろなボケと治るボケ

財団法人広南会 広南病院 神経内科 部長 大沼 歩

ある程度の年齢になると、ちょっとした物忘れが気になります。「認知症の始まりでは?」、「年のせい?」と、自分で考えて悩んでいる方もいると思います。私の勤務している病院では数年前から『物忘れ外来』を始め、年間約500名の方が受診します。アルツハイマー型痴呆や脳血管性痴呆などは良く知られ、皆さんも雑誌や講演でご存じのことでしょう。これらの疾患には有効な特効薬がなく、進行していく病気です。でも『物忘れ外来』を受診する患者さん全てがこのような疾患とは限りません。適切な診断と治療で治るボケや、ボケと間違われる病気もあります。代表例を紹介します。
(こんな物忘れもあります)

【71歳、女性】3年前から不眠、淋しい、不安、物忘れがあり、来院しました。知能検査はほぼ正常でCTやMRIも正常です。話を聞くと、急に淋しくなった後に動作が止まり、口をモグモグさせるそうです。脳波をとると左の脳の横の部分から異常な波が出ていました。この方の病気は、脳の横にある側頭葉から生じる『側頭葉てんかん』という疾患です。中高年で発症する『てんかん』もあり、なかでもこの『側頭葉てんかん』は一見、物忘れに似ています。ある薬を飲むと、典型的な方では翌日から症状がなくなります。

【75歳、男性】数年前から、ボーっとして、会話や動作が遅く、尿失禁もあるために受診しました。歩行は小刻みで、CTをとると脳の中の部屋(脳室)が拡大し、脳の横にあるシワが拡がっています。これは『正常圧水頭症』といって、髄液の流れが障害されて脳室が大きくなってくる病気です。脳室に細い管を刺して、髄液を流しやすくすると症状が改善するので見逃してはいけない疾患です。

【77歳、男性】元来、酒好きの方で、一ヶ月前から何となくトロンとして反応が鈍く、言葉も呂律がまわりません。ボケたと思って家の人が連れてきました。右の手足に軽い麻痺もあり、CTをとると頭の左側の脳と頭蓋骨の間に血液がたまっていました。話を聞き直すと、二ヶ月前に転倒して軽く頭をぶつけたようです。この方は脳外科で頭に一円玉程度の孔をあけて出血を取り、完全に元の状態に戻りました。これは有名な『慢性硬膜下血腫』で、頭部打撲は軽いですが、徐々に脳の表面に出血してくる病気です。高齢者にみられやすいです。(よくボケと間違えられます)夜に寝られないので、睡眠剤をもらっているお年寄りも多いと思いますが、これら『安定剤』は、時に物忘れや異常な言動(せん妄)などを生じることがあり、ボケと間違われます。転倒の原因にもなりますので注意が必要です。

『難聴』の方は、何度も聞き直すのがおっくうになり、そのまま聞き流してしまいます。物忘れがあるとして来院しますが、時間をかけて知能検査をすると正常なことが多く、高齢者ではこのような感覚器の障害にも注意が必要です。

意外に多いのが『うつ病』です。特に高齢者は、物忘れも含めた身体症状の訴えが前景に立つので、診断に苦慮する場合が多いです。内科疾患では『甲状腺機能低下症』や、アルコール摂取に伴う『ビタミン欠乏症』によるボケをよく経験します。そのため当院の「物忘れ外来」では甲状腺ホルモンやビタミンB群の測定は必ずやるようにしています。

これまで述べてきた事例に共通するのは、症状が比較的急にみられている点です。このような症状に見覚えがあったり、その症状が急に出た場合は、神経内科を受診してください。治療によって治る病気が隠されている可能性があります。

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