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健康メモ
お酒の功罪 〜適切な飲酒量とは〜
健康メモ

お酒の功罪 〜適切な飲酒量とは〜

市立秋田総合病院 副院長 消化器内科・代謝科 小松 眞史

複雑な人間関係とストレスの多い現代社会において、お酒はその解消や潤滑油として、さらに世界の様々な民族が育てた特有のお酒はその地域の文化としての側面も見せています。その一方で、アルコール依存に関連した深刻な問題があり、根拠のある適切な飲酒量の設定は現代人の健康被害の回避に貢献するばかりではなく、お酒に対する悪しきイメージの解消やその国の経済にも良い影響をおよぼすものと考えます。

世界の最多飲酒国でかつ脂肪摂取量の多いフランスで冠動脈疾患や心筋梗塞による死亡率が低い(フレンチパラドックスと言われていた)のは赤ワインを摂取するためとの報告から、わが国でも一大赤ワインブームがおこったことは記憶に新しいが、このことは赤ワインにのみ認められるものではなくアルコール全般に認められる現象です。それ以降、欧米では少量の飲酒はまったく飲酒しない人に比し死亡率を低下させ、これは冠動脈疾患による死亡率を低下させるためとする報告が多くなされています。欧米でのさまざまな前向き疫学調査を集めた研究では全死亡率は非飲酒者に比し一定の飲酒量までは低下し、一定量を過ぎると反対に上昇するいわゆるJ型効果を報告しています。全死亡率が最も低下した飲酒量は男ではエタノール1日10〜19グラム、女性では0〜9グラムでした。

わが国の男性19231名を対象にした研究でも総死亡、がん死亡ともにJ型効果を認め、週1〜149グラム(1日1合未満)が最も低く、週300〜449グラム(1日1.6〜2.4合)から上昇することを報告しています。また、脳卒中に関しては3合以上の飲酒者では非飲酒者に比して発症リスクが約2倍となり、一方2合未満では20〜40%低い傾向があることが報告されています。

厚生労働省の提唱する21世紀における国民健康づくり運動では、上述した研究報告を取り入れ、節度ある適切な飲酒量は1日アルコール20グラム(ビール中ビン1本か清酒1合)としています。なお、女性やアルコール代謝機能の低い人、65歳以上ではより少量の飲酒が適当であり、アルコール依存症では断酒が必要としています。

わが国のアルコール消費量は1994年以降ほぼ横ばいの状態にあり、最近の傾向として常習飲酒者の増加、特に女性、未成年者、高齢者の問題飲酒が指摘されています。アルコールの過飲により生ずる様々な問題は個人の健康問題のみにとどまらず、しばしば家族を巻き込んだ深刻な問題であり、さらに事故や犯罪など反社会的な面を持つことも少なくありません。会社を退職した趣味を持たない元仕事人間、伴侶をなくした高齢者では寂しさからアルコールを飲用する機会が増え、徐々に酒量が増加し依存症になる例も少なくありません。アルコール依存症は難治性で治療後の再発が多いのですが、高齢者ではその治療効果は比較的良好と報告されています。適度のお酒は薬となるが、過量では精神および肉体にさまざまな健康被害を引き起こすことを銘記すべきと思います。

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