ホーム
健康メモ
電子カルテで変わる医療〜関東逓信病院から関東病院へ〜
健康メモ

電子カルテで変わる医療
〜関東逓信病院から関東病院へ〜

NTT東日本関東病院 副院長・外科部長 小西 敏郎

1.はじめに

いま五反田の関東病院(旧称 関東逓信病院)は最先端のIT化病院として注目されています。関東病院の最大の特徴である電子カルテ(electronic medical records:EMR)を見学に、わが国だけでなく、外国からも多くの見学者が訪れています。この電子カルテと同じシステムが2002年の秋にNTT東日本札幌病院に導入されて北海道で評判になっています。そこでNTTのOBの皆様に電子カルテシステムについてご紹介させていただきます。

2.関東逓信病院から関東病院に

外来での診療風景
モニター画面で分かりやすく説明できる外来での診療風景

1952年に関東逓信病院は電電公社の職域病院のひとつとして東京・五反田に開設されました。電電公社がNTT(日本電信電話株式会社)として民営化されて、病院も1985年に一般開放されましたが、1999年にNTTが持ち株・東・西・コミュニケーションと再編成された際にNTT東日本関東病院と改名しました。そしてちょうど21世紀への入り口である2000年12月に、「世界に冠たるマルテイメデイア病院」をめざし、完全な電子カルテを備えた新病院(図1)がオープンしました。NTTの皆様の強力な支援をいただいて、最新の設備を備えることができた新病院では、従来の紙カルテとレントゲンフィルムをまったく使用しないペーパーレス・フィルムレスの電子カルテシステムKHIS 21(Kanto Hospital Information System 21世紀)による診療が始まりました。

わが国の多くの病院では値段が安く商売上手の某社の電子カルテが圧倒的なシェアを占めているようです。しかし見学の方々から伺う話では、故障が多く、機能も問題があるようで評判がよくありません。故障が少なく、処理のスピードも早く、機能性に優れた当院の電子カルテは、1年半の年月をかけてNTTとIBMが協同で開発しました。実際の外来診療では、従来のように紙のカルテに書き込むことなく、モニター画面を患者さんと一緒に見ながら診察しています(図2)。

3.なぜ、病院にITなのか

ではなぜ病院に、いま電子カルテが必要なのでしょうか。厚生労働省が2006年までに400床以上の病院の60%の施設に電子カルテを導入する方針ということもあって、全国の病院で電子カルテ導入の検討が始められています。またパソコン好きの先生がいれば、市中の開業医やクリニックでも電子カルテが使われ始めています。でも皆さんは、ご自分が病院で診察を受けるときを考えると、電子カルテによる診療では、医師・ナースがキーボード操作にとらわれて、モニター画面にばかり目をむけることになって、診察がおろそかになり、医師・ナースと患者さんの間の人間関係が不在の医療になるのではと心配されていませんか。いったい電子カルテでは診療がどのように変わるのでしょうか。

4.電子カルテの実際

電子カルテと聞くと一般には診療記録をワープロ入力しているだけであると思われるかもしれません。しかし当院の電子カルテシステムは単にドクターの診療記録をキーボード入力するだけのものではありません。血液検査にはじまり、放射線・内視鏡・超音波・心電図検査や細胞診や切除標本の病理診断などすべての検査オーダー、さらには各種の処置や外来診察の予約や入院の予約、あるいは手術の申し込みにいたるまで、日常診療のすべてのオーダーを医師が診療中に電子カルテに入力しています。検査の予約は電話で皆さんのご希望日をお聞きしながら、その場で予約することもできます。また他院からの紹介状もスキャナーで電子カルテの中に取り込まれています。

すべての検査結果も電子カルテに記録されていますので、2000年の12月4日以後に当院で受けられたすべての検査結果は、どの端末からも調べることができます。電話で結果の問い合わせをお受けしても、ID番号さえわかれば確認できます。すべてのレントゲン写真や心電図も画像で取り込まれていますので、いつでも拝見できます。

診断書や他院への医療情報提供書も電子カルテで作成します。手術記事も術中写真や切除標本のスケッチをデジタルカメラで撮影して入力すれば、ビジュアル中心のわかりやすい手術記事ができあがります。さらに諸検査や処置・処方・点滴はすべて医事会計に連動しており、事務処理・支払い計算も確実でスピーデイです。

すべての薬剤の処方や点滴処方もキーボード入力です。抗がん剤の注射の場合は、あらかじめ登録してあるたくさんのレジメンの中から選択して、クリックを繰り返すだけでOKです。どんなに複雑な組み合わせの多剤併用療法も、外来診察中に、極めて短時間の操作で、書き間違いや読み間違いのない正しい薬剤名で、正確な投与量や投与法・投与間隔の指示となって瞬時に薬剤部に伝えられます。当院の電子カルテシステムでは、間違えて入力するとブロックされますので、抗がん剤処方の間違いは非常に少なくなっています。電子カルテはミスの多い薬剤処方・点滴処方に関しても安全の面からも極めて優れているといえます。

いま大きな問題になっているカルテの改ざんはまったく不可能になっています。どんな操作も、あらゆる指示や記載も、医師名・日時と入力した端末機名が正確に記録されているからです。実は、端末画面を開くだけでも、操作を開始した指紋登録者の名前と時刻と使用した端末機名がシステムに記録として残ります。そして、どのような修正指示を行っても、修正される前のすべての記録とともにその操作の執行者名・日時・端末機名が記録され保存されています。したがって、修正することは自由にできますが、修正した記録が残りますので、いわゆるカルテの改ざんはまったく不可能です。

電子カルテシステムは慣れれば、診療を効率的に行え、検査結果の参照も迅速で、正確でミスの少ない診療ができます。採血・採尿の結果も検体を提出して30分もすれば外来で結果が確認できます。レントゲンではCT検査などの撮影が終了した患者さんが外来へ診察に来られた時点で、モニターで画像を読影することができます。フィルムを取りに走る必要はありません。内視鏡検査もフィルムを取り寄せなくても、検査が終了したら内視鏡室で記入された報告を画面でみることができます。プリント機能をふんだんに利用すれば容易に印刷できるので、患者さんへの情報開示も容易であり、医療サービスは間違いなく向上します。さらに医療スタッフ間の情報の共有化も推進され、チーム医療の展開に貢献します。電子カルテは慣れるまでは大変です。しかし慣れてくれば、一般に危惧されるような医師と患者との人間関係が崩れることはなく、むしろ患者の医師や診療内容に対する信頼度は電子カルテによって良好になると強く感じています。

5.ご不満の患者さんも納得

電子カルテで患者さんとの信頼関係が向上することの一例として私が経験したエピソードをご紹介しましょう。電子カルテを導入して半年後の当院へおみえになった患者さんです。1年前まで当科外来へ良性の乳腺腫瘍で通院しておられた50歳の女性ですが、1年ぶりに「自分の過去の病歴のコピーを頂きたい」と不服顔で外来へおみえになりました。お話を伺うと、その患者さんは1ヶ月前に他院で乳癌の手術を受け、現在強力な化学療法を受けておられるとのことでした。当院では1年前まで乳癌と診断できていませんでしたので、当院の2年間の治療内容に不満を感じて受診されたわけです。「診断が間違っていただろうからこのような結果になった。ぜひカルテのコピーがほしい」との意向で受診されました。そこで患者さんに電子カルテのモニターの前に私と一緒に座っていただき、過去の紙カルテ時代の診察内容を詳しくご説明しながら、目の前でキーボードでわかりやすく電子カルテに入力させていただきました。疑惑の目でコピーがほしいといっておみえになった患者さんが、当科での診療内容をだれでも読める字で書かれた電子カルテの記録をまのあたりにすることで、すっかり御理解され、「私の場合は診断が難しかったことがよくわかりました」と御理解いただくことができました。さらに、カルテ内容を修正すると修正前の記載は完全に残り、いつだれがどの端末でどのように書き換えたか、秒単位の時刻で確認できる電子カルテシステムをおみせすると、「コピーは結構です」とお帰りになられました。電子カルテのモニター画面ですべての情報をオープンにすることで、大変確定診断の困難な乳腺腫瘍であったことをご理解いただき、そして改ざんが不可能なことでコピーの保存は不要と判断されたのだと思います。

このような経験をして医師として感じるのは、当院の電子カルテに記録されたすべての診療内容・検査結果が患者さんにも読解できる字で正確にモニター画面で全員が読み取ることができ、瞬時に画面で説明ができ、しかも簡単にプリントアウトされて読んで確認できるので、医療に対する不信感は電子カルテで発生しにくくなるといえるのではないでしょうか。

6.電子カルテの意義

電子カルテの意義を表1にまとめてみました。電子カルテでは、カルテ内容がすべてのヒトに容易に解読でき(記録の普遍化・公正化)、診療時間は速くなり(診療の迅速化)、カルテ・フィルム・伝票の捜索や運搬・添付などの業務は不要となり(雑務の省力化)、またカルテやフィルムの保存スペースは不要となり(データ保存空間の圧縮)、医療従事者同士の意思疎通は良好となり(チーム医療の推進)、そして安全な医療へと展開できる(安全性の向上)と思います。なかでも、もっとも強調したいのは、モニター画面を通じて正確に医療内容を患者に説明する(情報の公開・IC(informed consent)の充実)ことで、医師・ナースと患者さんとの相互の信頼関係が増す(相互信頼の向上)ことでしょう。

表1 電子カルテの意義

  • 1.記録の普遍化・公正化
  • 2.診療の迅速化
  • 3.雑務の省力化
  • 4.データ保存空間の圧縮
  • 5.チーム医療の推進
  • 6.安全性の向上
  • 7.情報の公開
  • 8.ICの充実
  • 9.信頼の向上

7.導入直後は大変でした

このように患者さんに喜んでいただいている電子カルテですが、じつは開院当初は不評でした。病院内には患者様からの御意見・御要望の提案箱(患者さまからの声)を設置してあり、また病院のホームページからもご質問・ご意見をいただいて、病院の改善に利用させていただいております。開院当初は、この投書箱に、電子カルテの端末操作等の不慣れやシステムバグなどのため、いろいろな苦情が多発し、「待ち時間が長い」、「医者が患者をみる余裕がないようだ」、「医師が不親切」などの不満の投書が山積みとなって寄せられました。しかし半年もすると御礼や賞賛の投書が多くなってきました。それは新システムの導入効果もありますが、システムに慣れた私ども医療者の患者様に対する御対応にゆとりができたからでしょう。私自身も電子カルテに慣れるまでは「これは高齢者の首切り道具だ」と思ってノイローゼになるくらい辛い数ヶ月でした。しかし今では、実際に外来での待ち時間は少なくなり、医師と患者さんとの意志疎通がよくなり、むしろ電子カルテの導入により医師と患者さまの信頼関係が増すことを実感しています。

8.ユビキタス社会のレゾナントな医療を電子カルテで

電子カルテシステムは21世紀の医療に求められている診療録開示によるインフォームドコンセントの実践や、EBM(evidence based medicine)に基づいた治療方針の策定、さらに安全性の向上には欠くことのできない重要なツールです。そしてチーム医療の推進、効率的な医療の提供、医療資源の節約、在院期間の短縮や医療費の適正化、そして患者さん中心の質の高い医療を展開するためには必須となっています。いわば、ユビキタス社会(”いつでも、どこでも、だれとでも”の時空自在の情報時代)におけるレゾナント(うてば響く、共鳴する)な医療が電子カルテで実現できるといえます。

電子カルテは今後さらに改善されて、21世紀のわが国の医療改革に大きく貢献することになるでしょう。NTTのOBの皆様のご期待にお応えできるよう、ますます努力したいと考えています。

参考書
小西敏郎・深谷卓・阿川千一郎・坂本すが編「医師とクリニカルパス」 医学書院、東京、2000年発行
小林寛伊 編集「医師・看護婦・コメデイカルのための診療録電子化への道」 照林社 東京 2001年発行
小西敏郎、石原照夫 監修「電子カルテとクリテイカルパスで医療が変わる」インターメデイカ社 東京2002年発行

ページTOPへ