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健康メモ
高齢者における泌尿器疾患〜尿失禁について〜
健康メモ

高齢者における泌尿器疾患〜尿失禁について〜

NTT東日本関東病院 泌尿器科部長 亀山 周二

1. 男女の排尿障害

男女別にみると、男性は前立腺と陰茎を有し、この部分の尿道長が16〜18cmに達する。かたや女性は、男性のように前立腺や長大なペニスを持たないため、尿道の長さは極端に短く、わずか3cmほどで、出口としては膣前庭部に開口する。

こうした男女の尿道の構造的違いは、病気にかかわる場合に顕著な違いとなってくる。すなわち、男性では尿道が長く、圧抵抗が加わり易いため尿が出にくい状態、かたや、女性では逆に尿道が短く、圧抵抗が減弱し易いため尿がもれる状態になりやすい。反対に、男性での尿失禁、女性での排尿困難は特殊な病態であり、直ちに何らかの治療を必要とする。

加齢に伴って50歳台以降は、男性では前立腺肥大症、前立腺癌等の疾患が劇的に増加し、それに比例して前立腺に起因した排尿障害が増えてくる。片や、女性では閉経後のエストロゲン欠乏や骨盤底筋群の弛緩などにより、尿道閉鎖圧の低下や、機能的尿道長の低下が生じ、その結果としての尿失禁が増加してくる。

この他には、脳血管障害(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血など)や脳内の変性疾患(パーキンソン病、多発性硬化症、アルツハイマー病など)で高位の排尿中枢が障害をきたした場合、脊髄レベルでの障害や、さらには手術その他での末梢の骨盤神経レベルでの障害等でも排尿障害は生じてくる。

2. 尿失禁とは?

一般的に、加齢とともに生理的に膀胱容量は低下し、尿のこらえ性が無くなる。一日に摂取する水分は、腎臓より尿となって体外に出されるが、日中よりも夜にかけて多く出るようになる。したがって、高齢者では若い世代に較べて、尿失禁になり易い状態といえる。

膀胱の出口や尿道の機能的神経支配は主に交感神経系によっている。尿禁制の保持は、人が社会生活を送る上で重要な要素である。人の排尿機能が完成するまで、生後1〜2年という、かなり長い時間を要するように、排尿の制御は非常に複雑で微妙なバランスの上に立っており、それだけに破綻をきたしやすい。

国際禁制学会の定義では「尿失禁とは、客観的に確認できる不随意の尿の漏れで、社会的もしくは衛生的に問題となるもの」と規定されている。尿失禁の中には、膀胱・尿道などに機能異常を認めないにもかかわらず、他の身体機能の異常(例:足腰が不自由でトイレに間に合わない)による機能性尿失禁がある。また、時に他の治療薬の副作用として頻尿および尿失禁などが生じることもある。こういった尿失禁は、きちんと除外する必要がある。

3. 代表的な二つの尿失禁のタイプ

腹圧性尿失禁

中高年女性によく見られ、咳、くしゃみをしたり、笑ったり、重い荷物を持ち上げた時など、お腹に力を入れた時に尿が漏れる。つまり、腹圧上昇時に尿が漏れる状態。膀胱に尿が多く貯まっている程、症状が出やすい。原因としては骨盤底筋の減弱や、閉経によるエストロゲン欠乏があげられる。通常、男性ではみられないが、前立腺肥大症や前立腺癌の手術後などに生じ得る。

切迫性尿失禁

中枢神経や脊髄神経のような神経疾患に伴って生じるが、原因不明のことも多い。 急に尿意がおこり、我慢ができずに尿が漏れる状態。自分の意志とは無関係に膀胱が収縮する(不随意の排尿筋収縮;不安定膀胱)。一回の排尿量の低下により、頻尿にもなる。男性・女性とも高齢者によくみられる。

4. 尿失禁の治療

腹圧性尿失禁の治療は、軽度なものでは保存的治療が有効である。骨盤底筋体操を行い、弱った筋力を強化して症状を改善させることから始める。通常はこれに薬剤を併用することが多い。薬剤としては膀胱内圧を減弱、あるいは尿道抵抗を高める薬剤が治療薬となる。保存的治療が効かない症例や、日常生活に支障をきたすような重症例では、手術的治療が選択される。

一方、切迫性尿失禁の治療はかなり困難である。まずは、一日の各排尿時刻、排尿量、失禁量を排尿日誌として記録する。そして、失禁を起こす前に、時間の見当をつけて排尿させ、次に排尿間隔を訓練により少しずつ延長させる(膀胱再訓練法)。これが無理な場合は、排尿日誌に基づいて失禁前に排尿させる定時排尿法をおこなう。いずれの場合も、排尿筋弛緩薬を併用すると、より効果的である。

5. おわりに

超高齢化社会に突入し、男性の前立腺疾患に伴う排尿障害、中高年女性の腹圧性尿失禁、男女を問わず高齢者の切迫性尿失禁はまさに現代病といえる。膀胱、前立腺、尿道の神経支配が研究され、それにターゲットを絞った副作用の少ない治療薬が開発中である。排尿のメカニズムは微妙なバランスの上に立っており、不幸にも尿失禁で悩まれているとすれば、疾患に理解のある泌尿器科外来に受診を願いたい。

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